NOVUS HYBRID PIANO NV5

Developer Interview開発者インタビュー

“ 目指したのは、暮らしに寄り添うデザインと
本物のクオリティ ”

商品企画:鳥居克彦
商品企画:鳥居克彦

NV5は当初、ダンパー機構を入れるか入れないか悩んでいました。というのも、NV5はデザインコンシャスな、生活に溶け込むデザインであることを目指していたからです。
ダンパー機構を入れると、どうしても目標としていたサイズよりも大きくなってしまう。魅力的な商品にならないということで、半ばあきらめかけていました。ですが、最終的に私たちの「なんとかならない?」という無理難題を、開発の方々が技術者魂というか、職人根性で頑張ってやってくれて。特許も取れるぐらいの技術を開発してくれました。
そこからチーム全体が「絶対に入れよう!」という向きに変わって、NV5をさらに一段上のグレードにブラッシュアップすることができました。難しいことを楽しそうにやってくれる技術者がいるっていうのは、ほんとうにありがたいなと思います。

機能やタッチのフィーリングを損なうことなく、ぐっとコンパクトに落とし込む。技術自体にいろんな秘密はありますが、これを実現したという点でも、NV5は業界内でも革新的なピアノになったと思います。タッチの良いデジタルピアノの最高峰といったかたちで、しかも場所を取らないスマートさもちゃんと保っている。いわば発明です。ここを起点に、新しいデザインのピアノが生まれていくのではないでしょうか。

“ 納得するまで諦めない「攻め」のものづくり ”

開発設計:市原ひかり
開発設計:市原ひかり

ピアノの設計自体を、世界的に、日本だけでなく海外も全部含めて、新しく機構自体を変えることってまずないんです。なので、どこまで攻めていけるかっていうのは、勝負するポイントなのかなと思っていて。ただ、やりすぎてしまうと、もともと持っていた良さを失ってしまうし、逆にやらなさすぎてしまっても、ありきたりなものしかできないので、そこのバランスが難しかったです。最終的にはいけいけと背中を押してくれる上司がいたので(笑)チャレンジングな良い開発ができたかなと思います。

ケースデザインも、“親板をラウンドさせる設計にした”とすんなり書いてありますが、これも実現するのがとても大変で。量産時は海外の工場まで行ったのですが、絶妙なニュアンスを共有するのが難しく、塗装サンプルをチェックして会社に戻ったものの、やっぱり納得できなくて、また工場に行って「やり直してもらえますか?」とお願いする…ということを何度もしました。これは上司の言葉ですが、こだわらなければ、ものをつくるのって非常に簡単なんです。だけどそうやって安易な発想で製品に向き合ってしまったら、新しい発想や考え方は絶対に生まれません。一切妥協することなく、チーム全体で作り上げたNV5はこだわりが詰まった仕事になったと思います。

“ 薄さの追求から生まれた
新しい技術 ”

ダンパー機構:山下光夫
ダンパー機構:山下光夫

今回、NV5にダンパー機構を入れるにあたって、ネックになったのが奥行きです。アコースティックはピアノのなかに空間的な余裕がありますが、ハイブリッドピアノは違います。電子機器がたくさん入ったピアノのなかに、従来のダンパー機構を組み込もうとすると、鍵盤の後ろに30~40㎜ほどのスペースが必要でした。しかし、それではNV5が目指している「世界一薄いピアノ」というコンセプトを実現できません。

じゃあどうするか、となった時に開発設計から出たのが、鍵盤の後ろ側ではなく、手前から突き上げる機構をつくろうという案でした。イメージとしては、後輪駆動の車が前輪駆動になる、という感じでしょうか。他社ではどこも実現していない、まったく新しい構造です。これが開発されたことで、ケースの限られたスペースからはみ出すことなく、もともとのデザインを保ったままダンパー機構を納めることができました。“薄くしたい”という条件があったからこそ見えてきた課題という意味では、ハイブリッドが与えた気付きがカワイの新しい技術を生み出した、という感じですね。

“ チーム全員の力で獲得した
グッドデザイン賞 ”

デザイン:伊藤慎一
デザイン:伊藤慎一

NOVUSシリーズは、アコースティックでもデジタルでもない、ハイブリッドという新しいカテゴリ。デザインにも、いままでにない新しさを取り入れていく必要がありました。
音楽教室に通うお子さんを持つご家庭などをターゲットにしたNV5は、リビングに置きやすい、薄くスマートなスタイルを追求しました。

アップライトピアノには“妻土台”と言って、脚と本体をつなぐ部品があります。これがあると、すごくクラシカルな印象になる。しかし、こういった重厚感のあるデザインは、現代のリビングインテリアにマッチしません。そこで思い切って、伝統とされてきたこのデザインを刷新して、いかに細い脚できれいにつくるか、ということに専念しました。その結果、カワイとして新たに、ユーザーの所有感や満足感を満たす、モダンな楽器を提案することができたと思います。

こういった、コンセプトに基づいた造形力が評価され、NOVUSシリーズは連続でグッドデザイン賞を受賞することができました。しかし、その真価はデザインだけでなく、生産、開発、企画といったプロジェクトに関わるメンバー全員が「まったく新しい楽器をつくる」という意識を共有し、同じ目標に向かって製品づくりができたこと。そういったチームとしての力にこそあるのだと思います。