NOVUS HYBRID PIANO NV10S

Developer Interview開発者インタビュー

“ カワイでなければ作れない「まったく新しい楽器」 ”

商品企画:鳥居克彦
商品企画:鳥居克彦

ハイブリッドピアノという市場において、どうすれば人一倍ピアノにこだわるカワイらしさが打ち出せるか。企画的な視点で考えた時に、まず注目したのがダンパーでした。既存のハイブリッドピアノには、ダンパーペダルがついているものはあっても、ダンパー機構がついているものはありません。ほとんどが、電子信号で音の伸びをオンオフするシンプルな構造です。実際、音に変化さえ出せれば、ダンパーの動きまで再現する必要がないという考え方もあると思います。ですが、ペダルを踏んだ時に鍵盤が軽くなる、あの感覚を再現することは、ピアノにこだわるという点ですごく説得力がある。カワイとして、これは何としてもやらなきゃいけない、ということで仕様を細かく詰めていきました。

一方で、NV10の商品企画の核は、「まったく新しい楽器をつくる」ということ。カワイが持つ電子とアコースティック、それぞれの技術を結集させた、新しいジャンルのピアノをつくる。それが、NOVUS=新しいという名前に込めた想いでもあります。そういう意味では、本物のグランドピアノアクションを積んでいるからといって、「本物のピアノみたいだね」となればいいのかというと、そうではない。ユーザーにとってハイブリッドピアノの魅力は、“新しさ”だからです。カワイがこれまで手掛けてきたピアノと、同じ匂いがするけどまったく違う。「これじゃなきゃ買いたくない!」と思っていただけるような商品を目指しました。

“ アコースティックとデジタル、それぞれの技術の集大成 ”

開発設計:山下光夫
開発設計:山下光夫

カワイのピアノ事業部と電子楽器事業部が、事業の垣根を越え、コラボレーションしてつくりあげたのが、このNV10です。アクションや鍵盤はアコースティックの工場、電子機能の組付けは電子の工場、といったかたちで2つの分野をまたいで生産が行われたのと同様に、開発設計もアコースティックとデジタル、両方の技術者が集まって試作を重ねてきました。

NV10の開発主担当は、じつは私ではなく同期の木村です。彼は電子設計をメインにやっていた人間だったので、アコースティックピアノをやってきた私とはしばしば衝突しました(笑)私は私で、電子の音とは言え、リアルアクションのタッチ感を妥協するつもりはありませんでしたから。一方で、今回の開発は電子ならではの機能や設計を知る機会にもなって、新鮮な発見もありました。ピアノに液晶タッチパネルを埋め込むなんてこと、アコースティックの開発では考えもしませんからね。そうして、アコースティックとデジタル、両方の良さを発揮するためにはどうしたらいいか、開発設計チーム内で何度も何度も意見を出し合いました。

結果的に、木村は発売を待たずに先立ってしまいましたが、彼がいたからこそ、この商品はかたちになったと思います。NV10がグッドデザイン賞を受賞した際には、チームの誰よりもよろこんでいましたね。正解のない、かたちの無いものをつくっていく開発設計の仕事を通して、いままでにないピアノを共につくりあげたことを、いまでも誇りに思います。

“ 限りなく生ピアノに近い、
ダンパー機構の説得力 ”

ダンパー機構:永瀧周
ダンパー機構:永瀧周

世の中にデジタルピアノは何万とありますが、そのなかでダンパー機構に手を付けている商品は、このNOVUSシリーズを除いていまだありません。
デジタルピアノを購入する人の目的は、ほとんどが家での練習用です。そうなれば、一番強く訴求されるのは、どれだけ“本物のピアノ”に近いかどうか。日頃、デジタルピアノの軽い鍵盤で練習していた人が、本番でいきなりアコースティックのずっしりした鍵盤に触れたら、一気に頭が真っ白になってしまった、というのは珍しい話ではありません。いずれ訪れる発表会などの機会で、十分な成果を発揮するためには、普段から本番に近いタッチ感で練習することが大切になります。

そういった観点から見ると、ダンパーペダルを踏んだ際、タッチがふっと軽くなるところまで再現されたNV10は、練習用として想定されるピアノのなかでは、一番高いレベルにあるのではないでしょうか。機能面だけを考えれば不要とも言えるこの機構、しかもグランドピアノに入っているような規模感のものを、限られたスペースのなかに再構築して、限りなく生ピアノに近い感触、体感を実現する。こういったデジタルピアノとは一線を画す価値を提供できるのも、長年培ってきたピアノ製作のノウハウと、カワイクオリティを追及する職人たちのプライドがあったからこそだと思います。

“ 機能美と高級感が生みだす
「本物の味わい」 ”

デザイン:伊藤慎一
デザイン:伊藤慎一

ダンパー機構はNV10の大きな特長ですが、これをアピールするにはある障壁がありました。言葉でいくら「このピアノにはダンパー機構がついてるんです!」と言っても、なかなかその価値がユーザーに伝わらない、ということです。この課題をデザインで何とかクリアできないか、と試行錯誤していた時、ふと私の頭をよぎったのが、創業85周年記念の年につくった『KR-85』というピアノでした。いわゆる“見せる”発想ですね。そこから着想を得て、ダンパー機構に特徴的な突き上げ棒を、隠さずにあえて前面に配置したことで、一目でダンパーがついていることがわかって、なおかつかっこいい、機能美を感じるデザインに落とし込むことができました。

また、音大生からのニーズを想定していたので、寮やワンルームの部屋にも置ける小さなサイズでありながら、ピアニストビューにも気を使い、本番との差を最小限にするため、本物のグランドピアノのようなリッチ感を実現することにもこだわりました。高級感のあるピアノブラックを、最大限美しく見せるために取り入れたのが、大きなラウンドやエッジの効いたラインです。この仕上げは、職人の洗練された技術が無ければできません。長年グランドピアノをつくってきた、カワイの高い塗装技術を、次世代のハイブリッドピアノでも味わっていただければと思います。